岐阜地裁で開かれている県内初の裁判員裁判は7日、2日目の審理で被害女性の証人尋問と被告人質問を行った。証人尋問では日常的な暴力や被害を生々しく訴える被害女性に裁判員5人が初めて質問。一方、殺人未遂罪などに問われた岐阜市小西郷、配送業杉山幸保被告(43)は、あらためて強い殺意を否定した。段ボール製の模造ナイフを使い、被告人と弁護人が犯行状況を再現する場面もあった。3日目は被告人質問と被告人の元妻への証人尋問などをして結審する予定。
◆2日目の詳報
9・35 被告人が入廷し審理を再開。
同40 法廷入り口から証言台までをついたてで隠し、被害女性への証人尋問が始まる。検察官から尋問を始め、弁護側と主張が食い違っている切られた後に胸や腹を突き刺そうとしたかについて、被害者は「心臓と胸と胸の間、胃の上あたりを刺してきました」と証言。「額にYの字の血管が浮き出て険しい顔をしていた」「殺されると思った」と振り返った。
10・00 検察官がついたての奥で状況を再現。立ち位置や動きを裁判員らに説明。その途中で「大丈夫でしょうか。気分が悪くなったら教えて」と被害者を気遣う。被害者は「事件後も痛み止めと精神安定剤を飲んでいる」と被害後の状況を話し、日常的な暴力やナイフを使った脅しがあったと訴える。
同30ごろ 検察官がマスクで隠した傷を見せるよう求めると、「病院や警察、子どもたち以外の前ではマスクを取って見せていない」と声を震わせる。尋問の最後には「被告人にどのような処罰を望むか」と聞かれ、「これまでの同じような事件で一番重い刑を望みます」。
11・35 20分の休憩をはさんで弁護人の反対尋問を開始。被告人が窓ガラスを割って被害者のいるアパートの一室に入る際の様子について「しっかりと表情が見えたか」「視力はいくつか」などと質問。事件の際に被告人がナイフを持った手を振り上げたかどうかなど、記憶のあいまいな部分を被害者にただした。
被告人との交際状況について、女性は「職場でナイフを持って待ち伏せをしていた」「おれからは逃げられない。別れるなら殺すと言われた」などと証言。プライバシーに踏み込んだ詳しい質問もあり、裁判員は両手の指を組んだり被告人を見たりして終始厳しい表情を見せた。
13・30 20分休憩が長引き15分遅れで裁判官と裁判員による尋問が始まった。法廷で初めて口を開いた男性裁判員は「高い席から申し訳ありません」と前置きし、「これまで(交際してきた)被告人の『ここはいい』と思ったところはありますか」と質問。被害者は「疲れた体をマッサージしてくれたり湿布を買ってくれたりした」と返した。
別の男性裁判員らが「暴力を受けてきて、事件までに何か対処はしていないか」「なぜ警察に行かなかったのか」などと代わる代わる疑問点を質問した。
14・05 当初予定より1時間20分遅れて1時間の昼食休憩。
15・10 公判を再開し、被告人質問を開始。弁護人が被害者への日常的な暴力の有無を尋ねると「1回だけです」と被害者とは食い違う証言をしたが、「3、4回ナイフを突きつけた」とも話した。
事件前日に被害者と車内で携帯電話のメールなどをめぐるトラブルの状況などを確認。弁護人の「殺すつもりは?」との問いに「ない。僕が刺さって死ぬかもしれないと思った」と証言した。ほかに「傷つけることは考え、傷つければほかの男が寄ってこず、僕が面倒を見られると考えた」などと熱っぽく語り、事件の際は「話をしに行った」と弁解した。
同45 ボール紙で作った模造ナイフを出し、弁護人が被害者役を演じて事件の状況を再現。被告人が模造ナイフを手に切りつける様子などを演じた。争点となっている胸や腹を3回刺そうとしたという点について、「自分もバランスを崩して転倒し、右手が2回当たった」と説明したが、「そのとき左手は?」と問われると「頭が真っ白だった」。
16・35 十分休憩をはさんで検察官が被告人への尋問を始めた。「話し合うために行ったというが、窓ガラスを割って話し合う人がいると思うか」と詰問されると、「かっとなっていました。頭が真っ白になっていた」と小声で繰り返した。
捜査段階で殺意を認めていたことを問われ、「警察に、反省しているなら不利になるようなことを話せと言われた」などと主張した。
17・32 最後に弁護側が尋問した際、秘匿とされた被害者の名前を誤って連呼し、裁判長が叱責(しっせき)して閉廷。
◆「自分から質問、量刑には必要」 傍聴人が感想
岐阜地裁で七日、裁判を初めて傍聴したという名古屋市熱田区の主婦(54)は「被害者の証人尋問を見たが、検察官の質問を聞くと被害者に同情してしまうし、弁護人の話を聞くと逆に思える」と傍聴の感想を述べた。「自分が裁判員になった時は自分から積極的に質問しないと、量刑は決められないと実感した」と話していた。