今回は、東京メトロ千代田線の湯島駅から、蔵前橋通りに向かって歩いて少しの、「木村硝子店」を訪問しました。クリスマスにワインをおいしく味わおうと、いいグラスを探していたのです。
木村硝子店の創業は明治43年。ワイングラスやカクテルグラスの注文を受け、外部のガラス職人と協力してグラスを作る老舗硝子店です。そのこだわり抜いたデザインは、国内の飲食店から支持されています。代表作の「木勝シリーズ(カクテルグラス)」は、英国の「Wallpaper」誌のデザイン賞を獲得するなど、世界的にも評価が高まっています。3代目社長の木村武史さんにお話を聞きました。
「田崎真也ワイングラスコレクション」
到着してまず、木村硝子店がプロデュースした「田崎真也ワイングラスコレクション」に、興味を惹かれました。田崎真也さんが、木村硝子店の木村さんと専属デザイナーの三枝静代さんと、共同でデザインした30種類のグラスです。
たとえば、赤ワイン用のグラス「プロトタイプ(S)」は、膨らんだ胴を持ち、より豊かな香りを楽しめるよう作られています。「軽快なタイプ(S)」と名付けられたグラスは、白ワインのフレッシュな酸味を味わうために側面がまっすぐになっているなど、飲みものに合わせた形になっています。「これで飲むワインはおいしいだろうな」と想像するだけで、頬がゆるみます。
基準は「自分がいいと思えるかどうか」だけ
店内には他にもグラスが無数に展示されています。どのグラスもバランスがよく、シンプルなのに美しい。どうしたらこんな曲線をデザインできるのでしょう。自らグラスの図面も描く木村さん曰く「自分がいいと思う感性に従うことです」。たとえば「木勝シリーズ」は、「売れるかどうか」ではなく、「自分たちが欲しい」と思えるデザインを三枝さんと考えた末に生まれたもの。他のグラスの図面を描くときに気をつけることも、まず自分が気に入るかどうかだそうです。
「いいと感じずに発売したグラスは、結局お客さまに喜んでもらえない」と、無数のグラスを作り出してきた木村さんは言います。来年創業100年をむかえる木村硝子店。木村さんの表情が一番引き締まったのは次の一言をおっしゃった瞬間でした。「自分すら感動しないグラスは絶対に売れません」。
クリスマスに“感動”を
ワインはグラスで味が変わると言います。今年の聖夜は、ちょっと贅沢なグラスで、ワインをじっくり味わってみるのはいかがでしょう。木村さんの言う“感動”が伝わってくるかもしれません。