11月11日15時55分配信 毎日新聞
アップル社が10月、ノートPC「MacBook(マックブック)」の新シリーズを発表した。美しさと性能を保ちながら、ボディをアルミニウムの一枚板に、ディスプレーやトラックパッドをガラスとしてリサイクル可能な材料を用いるなど環境への配慮も施した。同社のフィリップ・シラー副社長に新型マック・ブックについて聞いた。
--今回、最も工夫・苦労した点はどのような部分ですか?
アップルはこれまでも、有害なものを省き、リサイクル率を上げることにずいぶん力を注いできました。有害物質というのは世の中にかなりたくさんありますが、有害物質を完全に排除したパソコンを送り出した企業はありませんでした。そういう意味では技術的にも大変なことでした。このシリーズは部品にも水銀、ヒ素などの有害物質は一切入っていません。私たちは一年以上かけて、安全な素材のパーツを作るところから取り組んだのです。
--アルミ板のボディを作ることが一番難しかったのでは。
確かに「一番画期的」なのはアルミのボディだと思います。リサイクル率を上げるという意味では非常に効果があると思います。そういったボディを組み込むことによって、再度商品づくりに使えるということは非常に画期的なことだと思います。
--他のアップル製品でも環境への配慮を広げていくのですか。
もちろん、すべての商品のリサイクル率をできるだけ上げたいと思いますし、有害物質をすべての商品において省いていくために努力を重ねていきたいと考えています。実は、商品を小さくするというのも我々の戦略の一つです。iPodを小さくして、包装も小さくすれば、たくさん運べるので燃費が上がるというわけですよね。そういうことでもエコフレンドリー、環境にやさしくなると考えています。
--こうした取り組みをどのように発信していきますか。
お客様とは商品を通してコミュニケーションをとっていると思います。今回のシリーズはとても画期的な商品ですから、商品そのものが世界へのメッセージとなると思います。
◇デジタル処理技術について
--画像や映像の処理能力がさらに向上したそうですね。
これまでは、高速処理をするか、美しく処理をするか選択しなければならず、しかもバッテリーは長持ちしなかったのです。すべての動作を満足できるものに何とかできないだろうかと思っていました。新しいシリーズは16の並列処理能力があり、これまでのものに比べ、最大5倍の3D処理能力があります。この技術はデスクトップのマックのために開発されたものです。これをノートで提供するということが、画期的で初めてのことなのです。
--今回、右クリック・左クリックや4本指で操作するガラス製マルチタッチトラックパッドが採用されました。
革新的な技術の採用で、可能性が一気に広がりました。素材の面でも、ガラスを使うことによって耐久性と触ったときの滑らかな感覚が得られました。滑らかな感覚があることによって指のいろんな動きが心地よく上手に使ってもらえる環境が生まれました。回転、ピンチ(2本の指でファイルをつまむ)、スワイプ(3本指でファイルを操作する)といった動きも自在にできる「マルチタッチ」は、iPhoneとiPod touchで使っているものを、パソコン用にソフトウエアを開発しました。トラックパッド一つにもたくさんの技術が詰め込まれています。
--一番工夫した点は4本指でも使えるようにした点でしょうか?
「一番」というのは難しいですね。すべてすごい。アップルは、適度な摩擦感や持ったときの感触、ソフトウエアなどすべての技術で最大限の努力をするという文化があります。使えば使うほど、努力をした結果の商品であると分かっていただけると自負しています。
--ヘビーユーザーの中には「拡張端子の数が足りない」「価格の割に搭載機能が少ない」といった声もあるようですが。
私はそう思っていません。今回のシリーズは、他のノートパソコンに入っていない機能がたくさん搭載され、最も良い、最も適当だと判断していただける商品だと思っています。多くの人が必要と思わないものは盛り込まないというのも重要な判断だと思いますよ。
--「新商品は8万円ぐらいになるのでは」とのうわさもありましたが、結果的には13インチで14万8800円。パソコンの価格についてどのようにお考えですか。
私たちはたくさんの調査をしました。購入者に「なぜMacBookを愛し選んだか」も聞きました。実は私たちのお客様は、機能は少なくていいから安いものをというよりは、「デジカメやハイビジョンのホームムービーカメラのためにもっと画像処理能力がほしい」、「データを貯める容量がほしい」という人が多かったのです。これまで以上の機能を提供できるようになったのが私たちの自慢なのです。
--日本のユーザーへ一言。
みなさまにどんどん使っていただけていることをうれしく思います。過去1年は、ここ10年で最も伸びたよい年でした。これからの1年もさらによい年になることと思います。というのは今回のシリーズは日本のみなさまに好まれる商品だと思うからです。日本の消費者は、デザインのすばらしさや、技術力、サイズ面など、価値の高いものを評価できます。そして、それを提供しているのがマックブックの新シリーズなのです。
<シラー副社長のプロフィル>
フィリップ・シラー 米アップル社ワールドワイド・プロダクト・マーケティング担当上席副社長。82年、ボストン大を卒業、マクロメディア社の副社長などを経て、アップル入社。97年から現職。