船舶や建設機械向けの鋳造部品を製造する中小企業が開発した高機能の鋳物ホーロー鍋が人気を呼んでいる。部品受注は景気に左右されやすい。消費者向け市場に自社ブランドの製品を出そうという兄弟二人の地道な努力が実を結んだ。節約志向で外食を控える「内食ブーム」も追い風となっている。
この会社は、名古屋市中川区の愛知ドビー。2月に鋳物ホーロー鍋「バーミキュラ」(直径22センチ)を発売した。色はパールピンク、パールグリーンなど5種類。同社のホームページからネットのみで販売している。価格は2万3800円。人気のフランス製ホーロー鍋と比べると2割ほど安く、注文しても5カ月待ちだ。
特徴は高い気密性による「圧力鍋効果」。野菜などをそのまま加熱する「無水調理」が可能で、うたい文句は“魔法の鍋”。「家で手軽に高級料理ができる」と評判が広がり、プロの料理家からも評価が高いという。
同社は1936年創業の老舗。今は社長の土方邦裕さん(35)、専務の智晴さん(32)の兄弟が率いている。二人はそれぞれ豊田通商、トヨタ自動車の社員だった。
開発のきっかけは2007年、智晴さんが引っ越し祝いに鋳物ホーロー鍋をもらったこと。鋳物鍋は鉄の熱伝導率の高さや炭素による遠赤外線効果で「素材のうまみを最大限に引き出せる」と人気が高い。
ところが一般に仕上がりの寸法精度は低く、表面も粗くなるため、智晴さんは「鋳造から精密な削り加工まで、一貫して手掛けてきたうちの技術力なら、より気密性が高い世界一の鍋が作れるはずだ」と一念発起した。
だが“生みの苦しみ”は想像以上だった。ガラスを吹き付けるホーロー加工は鋳物には難しく、微妙な焼成温度の差で気泡が生じ、思うような仕上がりにはならなかった。
鋳造部門を担当する智晴さんは、最適な鋳物の素材を求め全国の専門家や研究機関を奔走。試行錯誤の末、昨年11月にようやく製品化のめどが付いた。発売後の大反響に、智晴さんは「これまでの法人相手の仕事では味わえなかった感動を覚えた」。
一生の宝物にしてほしいと、ネーム入れやホーローの加工直しも受け付ける。月500個を生産するのが限界だが、今後は1人用(直径15センチ)、2人用(同18センチ)と商品ラインアップを広げ、5年後に月1000個の販売を目指す考えだ。
(瀬戸勝之)