低予算作、元夫の超大作破る アカデミー賞に新たな歴史

 ジェームズ・キャメロン監督のSF大作「アバター」か、キャスリン・ビグロー監督の戦争映画「ハート・ロッカー」か。かつて夫婦だった監督の対決で注目を集めた第82回アカデミー賞は、元妻ビグロー監督の勝利で幕を下ろした。女性監督の映画が監督賞や作品賞のオスカー像を受けたのは初めて。授賞式の8日(日本時間)は、米国映画界の“ガラスの天井”が破られた歴史的な日となった。

最多9部門ノミネートで並んだ「元夫婦」の作品は、好対照だった。「アバター」は2億ドル超を投じた大ヒット作。3D映画の新時代を開き、「タイタニック」でキャメロン監督自身が築いた世界興行収入記録を更新した。

 一方、「棺おけ」を意味する米兵の俗語を題名にした「ハート・ロッカー」は製作費1100万ドルのインディペンデント映画。骨太のアクション映画で知られるビグロー監督が手持ちカメラを駆使して、最前線の兵士の葛藤(かっとう)を、生々しく描いた。

 結果は、「ハート・ロッカー」が作品、監督、脚本など6部門で受賞し、技術部門3賞の「アバター」を突き放した。大手映画会社が敬遠するイラク戦争という題材に正面から切り込んだビグロー監督らの挑戦に共感が集まった。

 監督賞のプレゼンターは、監督歴もあるバーブラ・ストライサンド。「やっとこの時代が来たわ」とつぶやき、女性初のオスカー監督の誕生を発表。ビグロー監督は「イラクやアフガニスタンで命がけの日々を送る女性、男性に賞をささげたい。無事の帰還を祈っています」とスピーチした。

 演技賞は有力候補が順当に獲得。主演女優賞は、「しあわせの隠れ場所」のサンドラ・ブロックが初受賞。「人生一度の幸運だとわかっています」と他の4候補をたたえたスピーチは、飾らぬ人柄を表していた。前日に別の主演作が最低映画賞のラジー賞に選ばれ、その授賞式にも律義に出席したという。主演男優賞は「クレイジー・ハート」のカントリー歌手役で円熟の演技と見事な歌を披露したベテランのジェフ・ブリッジスがやはり初めて受賞した。

 助演女優賞は、「プレシャス」で父親にレイプされた娘をさいなむ鬼のような母親を演じたモニーク。助演男優賞はカンヌ国際映画祭男優賞にも輝いた「イングロリアス・バスターズ」の才人俳優クリストフ・ワルツが受賞した。

 長編ドキュメンタリー賞は日本のイルカ漁を告発した「ザ・コーヴ」が受賞した。「人々を啓発する娯楽作を目指した」と製作者。国内では隠し撮りの手法などが批判されているが、米国では潜入取材の過程をスパイ映画風に見せる演出が受けた。反発も予想されるが、作品を見ずに批判をしても説得力はない。日本公開が建設的な論議の契機になるのを期待したい。(深津純子)

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