東海道新幹線3100人缶詰め 品川-小田原間で架線切れ停電

29日午後1時50分ごろ、東海道新幹線の品川-小田原間で停電が発生、午後5時13分に復旧するまで約3時間半、両駅間の上下線で計6本が立ち往生し、うち5本に乗車していた計約3100人が缶詰め状態になった。運転見合わせ区間は一時、上りの新大阪-東京間、下りの東京-岐阜羽島間まで拡大。上下線で最大4時間21分、計190本が遅れ、約14万9000人に影響が及んだ。運休は計56本。

 JR東海は同日夜、東京、名古屋、新大阪の3駅に宿泊用の新幹線を用意した。

 新横浜-小田原間の横浜市神奈川区羽沢町で下りの架線が切れたのが停電の原因とみられ、線路横ののり面では垂れ下がった架線から出た火花が燃え移ったとみられる火災が発生。直前に通過したこだま659号の12号車パンタグラフが中ほどから折れて分解し、こだまの屋根や線路に落ちていた。JR東海などがパンタグラフとの関連や架線が切れた原因などを調べている。

 同社によると、小田原駅に停車していた新幹線の乗客が「具合が悪い」と訴え、救急車を呼び、現場で手当てを受けた。立ち往生したのは品川-新横浜間で1本、新横浜駅で1本、新横浜-小田原間で4本。

 国土交通省関東運輸局(横浜)は29日夜、JR東海に、原因究明と再発防止を命じる警告文書を出した。
切れた架線は、パンタグラフに接触する架線「トロリ線」をつる「補助吊(ちょう)架線」で交流2万5000ボルトの電圧がかかっている。JR東海は架線の仮復旧やパンタグラフの点検を終え送電を再開した。

 神奈川県警によると、同日午後1時50分ごろ、沿線にある横浜市神奈川区の住民から「新幹線が通過した後に『ドーン』という音がして架線が切れ、火花が出ている」との通報があった。消防によると、沿線で発生した火災で、のり面の雑草約200平方メートルが焼けた。

 火災現場近くにいた人の話では、切れた架線が線路に何度か接触して火花が散り、その後、雑草に火が移ったという。

◆仕事、受験の足を直撃 
29日午後に発生した東海道新幹線の停電事故は、出張客や帰省客の足を直撃した。立ち往生した車内では乗客が3時間以上、缶詰めに。「蒸し風呂」のような暑さの中、赤ちゃんの泣き声が響いた。一方、名古屋駅では足止めを食った乗客が疲れ切った表情で長蛇の列をつくり、週末を前にした混乱は終日続いた。

 架線の切れた現場を直前に通過したこだま659号に乗っていた会社員宮野彰一さん(56)=名古屋市中川区=によると、新横浜駅の出発から数分後に「『バシッ』って、ガラスが割れたような音がした」という。

 火花や煙は見えなかったが、新幹線はそのまま停止。「沿線の火災で停電が起きた。12号車のパンタグラフを取り換える」と車内放送が流れると、大勢の乗客がデッキへ向かい、携帯電話で連絡に追われた。

 品川-小田原間で立ち往生した新幹線は6本。停電した車内ではトイレが使えず、空調も止まった。「混乱はなかったが、車内は薄暗く、蒸し暑かった」と愛知県東郷町の会社員竹内伸次さん(43)。名古屋市中川区の絵手紙講師の女性(62)も「赤ちゃんの泣き声が聞こえてかわいそうだった」と振り返った。

 喫煙車はたばこの煙で真っ白に。「なるべく吸うのを控えてください」とアナウンスが入ったが、愛知県半田市の会社員男性(32)は「みんなイライラするから吸っちゃったんでしょう。缶詰めは精神的につらかった」

 名古屋駅は運転再開を待つ人であふれた。出張帰りの千葉県八千代市の会社員平山常明さん(46)は「しょうがない」とあきらめの表情。名古屋市内で大学入試を終えた静岡市の高校生鈴木由里絵さん(18)は「明日も名古屋で試験がある。早く帰って勉強したいんですけど…」と参考書と携帯電話を手に、出発ボードを見上げた。

 車内で缶詰めになり、4時間遅れの午後7時に名古屋駅に着いた横浜市の会社員札綾香さん(23)は「ずっと立っていて疲れました」とぐったりした様子で、帰省先の豊橋行きのホームへ急いだ。

◆補助架線、点検の死角か
 新幹線を動かす電気は、線路上5メートルの高さに張られるトロリ線(直径数センチ)と接する屋根のパンタグラフを通じて、車体に送電される。今回切れた補助吊(ちょう)架線(直径1・6センチ)はトロリ線がたわむのを防ぐため、トロリ線の15センチ上を平行に張られている。

 JR東海によると、在来線はトロリ線だけだが、新幹線は高速走行するため、補助用の吊架線を使ってトロリ線の張りを保つ。ともに銅線。銅線が切れて接地すれば車体に送電されず、停電する。

 今回は、切れた補助吊架線が地面に接触、ショートして停電したとみられる。停電区間は品川-小田原間だが、新幹線が立ち往生すれば後続新幹線も動けなくなり、影響は全線に及ぶ。

 補助吊架線の切断原因は不明だが、パンタグラフも脱落しているため、金属疲労などで自ら切れたか、パンタグラフが脱落した弾みで切れた可能性がある。

 JR東海は電線系統の異常の有無を調べる試験列車「ドクターイエロー」を10日に1回走らせるが、直近の点検で異常はなかった。脱落したパンタグラフも27日の点検で問題なかったという。

 一般的に、トロリ線とパンタグラフは高速で接し続けて摩耗しやすいため定期点検などは入念に行われる。半面、パンタグラフに接しない補助吊架線は摩耗しないため、比較的整備が念入りでなく、死角になった可能性も浮上している。

 JR東海管内では1990年8月に台風で、2004年には突風による屋根の衝突で補助吊架線が切れたことがある。

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