ガラスの仮面 [著]美内すずえ

■「紅天女」を巡る30年の闘い

 1976年に少女漫画雑誌「花とゆめ」に連載が開始、30年以上たった今でも物語は完結していない。幻の名作「紅天女(くれないてんにょ)」を演じるのは北島マヤなのか、ライバルの姫川亜弓なのか。マヤと「紫のバラの人」速水真澄は結ばれるのか。中毒症状に陥ったファンは気持ちを抑えながら待っている。

 コミックス単行本の第40巻(93年)から第43巻(09年)まで、実に16年もかかった。ファン層はすでに祖母、母、孫の3代までも広がり、国民的な漫画といっていい。そして8月に刊行された待望の44巻。マヤと真澄はそれぞれの三角関係が進行し、いつもならマヤが直面する絶体絶命の危機が、亜弓に降りかかり――。

 現在、累計で約5千万部。これほどまでに読まれる理由はいくつもある。漫画の中で、『奇跡の人』などの古典や著者オリジナルの劇が上演される二重の物語性。いじめによって舞台で本物の泥だんごを食べるはめになっても、底辺から這(は)い上がっていくポジティブな少女のマヤや、親の七光りに頼らず自分の力で道を開こうとする努力の人・亜弓といった強いキャラクター。そして、初恋のような純粋さを失わないそれぞれの恋模様(マヤは真澄が「紫のバラの人」だとなかなか気づかなかった)。月影先生をはじめとするマヤを支える人々の、アドバイスとしての名ぜりふも効いている。

 最大の理由は、この物語の中で、困難に直面しつつ決断し、行動するのが女性であることだろう。「理想」に向かい「困難」を乗り越え、自分を高めていく。女性読者はマヤや亜弓に重ねることで、エネルギーをもらうのだ。

 マヤがそんな競争に疲れた時には、そう、真澄というセーフティーネットがきちんと用意されている。そのことに読者は何度安堵(あんど)したことか。しかし現実問題としては男性に、陰で支えるような余力はもうなくなっているのだが。

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 1刷55万部

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