探訪・ノスタルジア:吉良川の町並み(高知県室戸市)

毎日新聞 2013年06月03日 大阪夕刊

 ◇壁に屋根に、瓦の機能美

 築100年前後の白壁の古民家が軒を連ねる高知県室戸市の吉良川町を歩いていると、懐かしいような、そうでないような引っ掛かりを覚える。そのわけは、白壁からひさしのように2〜4段も瓦が突き出ているからだ。

 水切り瓦というそうで、平瓦をひっくり返して凹面を下にして並べている。吉良川町並み保存会の角田佳資(よしすけ)さん(83)は「この辺は横なぐりの雨が多いので、雨水を早く流し出して壁を保護するため」と説明してくれる。土地の気候に適した独特の造りなわけだ。

 もう一つの役目がある。「デザインです。一面、白の壁だけだと間抜けな感じがするけんど、風格が出る」。間抜けかどうかはいかんとも言い難いが、最近はこちらの比重が大きいようで、「隣が3段だから、うちは4段に」なんてこともあるとかないとか……。

 白壁のしっくいも独特だ。「触ってみて」と勧められて、なでてみるとツルツルすべすべ。日の光を受けて、鏡のように光る。「鏡面磨きといって、最後は手でこするんです」。土佐しっくいは、のりを混ぜず、わらすさという糸状の稲わらを練り込む。一度に厚塗りできず、塗っては乾かし、を繰り返すから3〜4カ月はかかるそうだ。その代わり丈夫で雨にも強い。「去年、塗ったばかり」と角田さんが指さした壁は黄ばんでいる。これが5〜6年もたつと、真っ白になるのだという。

 旧国道の狭い道沿いを中心に、母屋や蔵など120棟も残る。土佐しっくいといい水切り瓦といい、普通よりも金がかかる仕様が成り立ったのは、吉良川町が林業で栄えたからだ。「黒い山は買え」と、古くから言い伝えられてきた。濃い緑の山はウバメガシだから、高く売れるという教えだ。

 明治時代、それまでたきぎ用だったウバメガシが、お遍路さんに備長炭の技術を教えられて、「上土佐備長炭」というブランド木炭となり、大阪や京都で重宝された。

 雨風から家を守る工夫は、まだある。角田さんが指したのは屋根瓦。普通はへの字形をしている瓦だが、この町特有の瓦は逆への字。隣り合わせた家で、向きが逆だ。「ここらは東から風が吹くので、瓦と瓦のすき間から雨水が漏れないように、瓦の重ね目を風下にしてるんです」

 への字の瓦があるのは、1997年に重要伝統的建造物群保存地区に指定されてからは、改修にもこの町固有の仕様が課せられたが、それまでは規制がなかったから。ただし、逆への字瓦は特注なので、高くつくらしい。町並みを守るには、そういう苦労もあるのだ。

 保存会の拠点でもある「町並み館」(取材後に移転したので、旧館は閉鎖)は築100年の民家で、「一番、吉良川の特徴を持った家」だという。まず、内部に仕切り壁がない。夏は湿気が多いので、風通しを良くするためだ。たんすなどは天井裏の物入れ「つし」に納め、つりばしごがしつらえてある。割れた柱を指して「いい木は藩のもの、2級品しか庶民には回らなかった」と角田さんが笑う。

 小学生の女の子3人が、座敷に上がっていった。土地の気候に合わせた100年前の家は、子どもたちにも居心地良さそうだった。【松井宏員】=次回は7月1日掲載

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 ◇ガイド

 吉良川の町並みへは高知龍馬空港から車で約1時間10分▽町並みガイドの申し込みは、吉良川町並み保存会(090・8978・4516)。5人まで1000円▽角田さんの営む民家を改装した宿「角屋」は1人1泊6500円(食事なし・自炊可)。角田さん(090・4504・9277)。

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