ホンダ「アキュラ」、米国での評判は?

恐竜が絶滅して新しい種が生まれたように、自動車産業界、特にスポーツ用多目的車(SUV)で同じことが起きている。
 10年前の米国(急速に変化する自動車産業の旧石器時代に相当)で、ガソリンと汚染物質をまき散らしながら高速道路を占領していたのは全長6メートルのシボレー「サバーバン」やフォード「エクスカーション」などの大型SUVだった。人々は家族全員が乗れてミニキッチンも完備し、いざというときには険しい山道にも分け入っていける車を必要としていた。
 ありがたいことに、その時代は過ぎ去った。それでもワニやトカゲなどが絶滅した恐竜の面影を残しているように、多くのSUVはみな同じような外観を持っている。
 しかし、生物学者ダーウィンが示唆したとおり進化が起きた。“4ドアスポーツクーペ”をうたったホンダのアキュラ「ZDX」の登場だ。クーペといいながら車高は1.5メートルを超え、SUVの「MDX」とプラットホーム(車台)は共通。クーペのようなフォルムを持ったSUVといえるだろう。まだ進化途中にみえるが、ライバル車より洗練され、きびきびしている。首の長い大型恐竜に対してすばしこい小型恐竜というところだ。
 四輪駆動で乗車定員は5人。後部席を倒すと1580リットルの荷物スペースが確保できる。燃費は市街地走行で1リットルあたり7キロ、高速道路走行で9キロと前世代のSUV並み。しかもハイオク指定だ。
 米国での販売は12月中旬からで、価格は「MDX」とサルーンの「RL」の中間に位置づけられ、約4万5000~5万ドル(約410万~455万円)となる見込み。小型SUVのインフィニティ「FX」と同程度で、BMW「X6」などクーペタイプのSUVより1万ドル程度安い。北米限定販売で初年度生産台数は年間6000台。ニッチ市場がターゲットだ。
 走りの性能はどうだろう。3.7リットルV6エンジンは最高出力300馬力。残念なのは4500回転で発生する最大トルクが366Nm(ニュートンメートル)しかないこと。高速道路で追い越しをかけるときは心もとない。6速ATのトランスミッションもシフトダウン時に一瞬間が開き、パワーの伝達がスムーズではない。
 スポーツ走行と快適走行を切り替えるシステムはオプション。スポーツ走行ではステアリングとサスペンションが固くなり、ボディーのロールが最小限に抑えられる。四輪駆動の恩恵を感じるのはこのときだ。コーナリングの最中は外側のタイヤにトルクがかかってくれる。
 この車の進化は機能面よりフォルムの点で進んでいる。どこから眺めても格好いい。外観デザインはアキュラの米国人若手デザイナー、ミシェル・クリステンセン氏とデーモン・シェル氏の手によるものだ。
 車高が最も高いのは前席の後方で、そこから優美な曲線がリアに向かって流れていく。ルーフは黒いガラス製。フードからリアバンパーまでガラスで覆われている。スポーツ車を思わせる後部のデザインがもっとも魅力的だ。テールライト、ガラス製ルーフ、リフトゲートがパズルを思わせるような複雑なデザインを描いてうまくまとまっている。後部ドアのハンドルはサイドウインドウ内に巧みに隠され、スーパークール。
 傾斜するルーフのせいで後部席の頭上はほとんどスペースがない。後部席の中央に座ることはできれば避けたいものだ。前部席は調整可能で高級レザーが用いられている。
 外観の優れた車はおおむね内装も素晴らしいものだが、ホンダ車は電装部が特に優れている。ステアリングはパドルシフター付きで、テールゲートは電動。さらにリアカメラに加え、iPodやブルートゥース接続機能が標準装備されている。テクノロジー仕様車のナビゲーションシステムは渋滞情報と天気情報を知らせてくれる。さらに最上位のアドバンス仕様車にはスポーツモード切り替え、ブラインド・スポット警告システム、クルーズコントロールが装備される。
 ZDXはエネルギー効率を気にする人向けの車ではないが、SUV進化の道筋をつけたといえるだろう。

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